レインウェア研究所:レインウェアの蒸れ対策。「透湿性」の高いレインウェアは、その効果や価値が本当に発揮できているか? 

近年は、気候変動の影響から、大気の状態が不安定で、日差しの強い猛暑日でありながら突然の豪雨に見舞われることがあります。また、かつては雨が降れば気温は下がるものでしたが、近年では雨が降っても気温が高いので、レインウエア着用時のムレを気にする声が年々高まっています。

そのようなムレ対策には、「透湿性(とうしつせい)」機能のあるレインウエアが相応しいと言われてきました。今回は、その『透湿性レインウエア』について考えてみたいと思います。

透湿性とは

透湿性とは、汗や湿気を外に逃がす性能のこと

レインウエアにおいての透湿性とは、レインウェア内にこもった汗や湿気を外に逃がす性能のことです。その透湿性は、透湿度という数値で表現されます。透湿度は、生地1m四方(㎡:縦1m×横1m)あたり、24時間で何グラムの水分を外に逃したかという数値で、「g/㎡/24h」という単位で表現されます。例えば、5,000g/㎡/24hの透湿度は24時間で1㎡あたり5,000gの水分を外に逃したということになります。

汗や湿気を外に逃がす仕組み

レインウェアで用いられる生地(防水布)の基本的な構造
レインウェアで用いられる生地(防水布)の構造

レインウェアは、裏面に防水樹脂が施された生地が用いられています。
こんにち主流の防水樹脂の主原料はPVC(ポリ塩化ビニール)とPU(ポリウレタン)で、透湿機能のある生地の防水樹脂の主原料はPU(同義:ポリウレタン・ウレタン、以下ポリウレタン)です。

透湿機能のある生地は防水樹脂(主にポリウレタン)で加工されている

この樹脂の配合と特殊なコーティング製法により、雨や水滴よりも小さく、汗などの水蒸気の分子よりは大きな無数の「孔」を樹脂面に施し、この孔によって、雨水は防ぐが、汗や湿気は外に逃すというのが透湿防水布の構造です。

数字で見る透湿度の効果

透湿性レインウェアと汗の関係

では、透湿度の数値をもとに、その透湿度の効果について考えてみたいと思います。

一般的に、人はランニングで1時間に約1,000gの汗をかくと言われます(発汗量は個人差があります)。一方、透湿度5,000g/㎡/24hを1時間に換算すると約208g/㎡/hとなります。

レインウエアを着てランニングすることはあまりありませんが、例えばこの機能(透湿度5,000g/㎡/24h)のレインウエアを着てお仕事をした場合、ランニング同様1時間に約1,000gの汗をかいたとして、㎡あたり約200g少々の汗を外へ逃すということになります。

透湿性レインウエアのあるある

ここでは、「透湿性レインウエアあるある」と題し、お客様から寄せられる透湿性レインウエアについての声やお客様の声に対してのトキワの見解をまとめてみたいと思います。

このレインウエア透湿ですか?

レインウェアに透湿性機能があるか、どのように見分けるのか

レインウエア購入を検討される際に、検討しているレインウエアに透湿性機能があるかはどのように見分ければよいのでしょうか?

透湿性レインウエアの場合は、製品情報に必ず「透湿度〇〇〇」という透湿についての数値が記載されています。これが最も分かり易い識別の1つです。その他、実物だけで判断する場合、店頭に並ぶたくさんレインウエアの中で、比較的風合いがよく、ガサつき感のないレインウエアが透湿機能を持つレインウエア(後述)、ということも一理あります。

透湿性なので「ムレない」という誤解

レインウェアのムレ

レインウエアお悩み2トップは「モレ(水漏れ)」と「ムレ(蒸れ)」と言われます。

この「ムレ(蒸れ)」の解消に期待し、透湿性レインウエアをお求めになられるケースは多いのですが、「透湿性=ムレない」という期待で購入するケースや「透湿度の数値が高ければ高いほどムレない」というイメージを抱かれて購入するケースがあるようです。その為、お客様からは「透湿性レインウエアを購入したのにムレた。なぜ?」「透湿度10,000g/㎡/24hと高い数値が記載されているのにムレた。なぜ?」という声をよく耳にします。

レインウエアに限らず、上下長袖、長ズボンを着て運動をすれば、どんなウエアでも汗はかきます。また、レインウエアの場合は、そもそも防水性が使命で、サウナスーツのような構造のウエアなので、やはりどうしても汗はかきやすいものです。ムレるということは否定できないところがあります。

その為、トキワは透湿性レインウエアの製品情報において「ムレない」という断言は、過大表示になり、お客様の期待を裏切ることにも繋がるので使用しないようにしています。

トキワの透湿性レインウエアの製品情報は、「ムレにくい」という表記で記載するようにしています。

次、着たら雨水が染みてきた・・・。

レインウェアが染みてきた

「次、着たら…」とは、既に一回着て、その次に着たらという意味です。つまり2回目に着たら、雨水が染みてきたという声です。2回目で早くも雨水が染みてしまうというのは、レインウエアとしてあまりにも・・・、その状況を訴えても無理のないところです。

さて、それはどうしてそのような印象を抱かれるのでしょうか?その理由にはいくつかの要因が考えられますが、やはり可能性として高いのは1回目に使用した後に、そのレインウエアをどのようなお手入れで保管したかということが問題です。

透湿性レインウエアは、使用した後、中性洗剤を溶かしたぬるま湯で優しく手洗い揉み洗いをしてください。洗濯後は、水滴が残らないほど水分をしっかり取り除いて、直射日光の当たらない風通しの良い場所に干して(陰干し)保管してください。これが次に安心して着ていただけるお手入れと保管方法です。

なぜ、このようなお手入れと保管方法が必要なのかは、後述する「意外と知られていないポリウレタン素材の特性と対応策」で深く解説させていただきます。

裏から白い粉がボロボロ落ちてきた・・・。

レインウェアの裏地からポロポロと白い粉が落ちてくる
レインウェアの裏地からポロポロと白い粉が…

しばらく着ないで保管しておいたら、生地の裏から白い粉がボロボロ落ちてきた・・・という声も透湿性レインウエアでよく耳にする現象です。これは、透湿性レインウエアの防水樹脂の主原料、ポリウレタンの劣化を意味しています。

ポリウレタンは空気中の水分や温度変化、紫外線などに反応して徐々に劣化していきます。この裏から白い粉がボロボロ落ちてきたというのは、裏に加工されたポリウレタンが劣化して、コーティングが固まり、剥離した現象です。裏からボロボロと落ちてしまうと、生地の裏面は部分的に剥離箇所が点在したような状態になってしまいます。この状態になると、もう既に防水の効力はなされていない状態で、当然その部分から雨水などは浸透してきます。

透湿性レインウエアの特性

次に「透湿性レインウエアあるある」から、透湿性レインウエアの特性について考えてみたいと思います。特性について理解をすると、これまで透湿性レインウエアに感じていたことも、少し見方が変わるかもしれません。

「ムレにくさ」より「軽さと着心地」

レインウェアのムレにくさよりも軽さと着心地を求めて購入する人もいる

透湿性レインウエアに、「ムレ対策」の効果を期待する一方で、人によっては、「ムレにくさ」より「軽さと着心地」を購入の決め手とされる人も多いです。

レインウエアは洋服の上から着るものだけに、そのウエアの重量は、身体全体にかかる負荷とも言えます。透湿性レインウエアの防水加工としてコーティングされている裏面に施されたポリウレタン樹脂は、動きやすさを特徴とするスポーツウエアやアンダーウエアなどで使用されることが多く、その素材の特性からレインウエアに軽さを実現、身体にかかる負荷が少ないという事で支持されています。

また、ポリウレタンは、あらゆる素材との相性がよく、生地本来の風合いを損なわない点が素材の良さとも言われており、レインウエアの着心地を実現する素材として高い評価を受けています。この「軽さと着心地」が透湿性レインウエアの特徴です。

意外と知られていないポリウレタン素材の特性と対応策

雨や汗などで濡れたレインウェアを長時間放置してはいけない

ポリウレタンは他の素材との相性がよく、軽量です。一方、ポリウレタンを利用した透湿性レインウエアはお手入れと保管方法をしっかり行わないと製品寿命が極端に短くなってしまうという点も気をつけたいところです。

ポリウレタンという素材は、雨や汗などで濡れてしまったあとに、そのまま長時間放置してしまうと「加水分解」という化学反応を起こし、劣化してしまいます。前述の「次着たら雨がしみてきた…。」現象を解明した時に、そのお手入れ保管方法で説明したように、洗濯後は水滴の残らないぐらいまでしっかり水分を取り除いてください。

また、ポリウレタンは熱などに弱いという点もあり、特に紫外線などで劣化が進んでしまうことがありますので、洗濯後には、他の衣料のように直射日光のあたる場所には干さず、風通しのよい場所に干し(陰干し)、保管してください。

このようにお手入れと保管方法について強く解説をするのは、透湿性レインウエアの裏面に施されているポリウレタン樹脂の特殊性からです。レインウェア本来の性能で長くお使いいただくためには、適切にお手入れと保管を行って下さい。

透湿性レインウェアと防水性レインウェアの比較

透湿性レインウェア(ポリウレタン)と防水性レインウェア(PVCラミネート)の比較表

透湿性レインウェア(ポリウレタン)と防水性レインウェア(PVCラミネート防水樹脂加工)を比較すると、PVCのほうが摩擦・摩耗に強く、耐久性が高いです。
また、お手入れの頻度についても、ポリウレタンのものよりPVCのほうが少なくすみます。

トキワのレインウェアは、ユニフォームとしてビジネスの現場でハードに使われることを想定しているため、耐久性と防水性の高い防水性レインウェアを中心に展開しています。

レインウエアの防水性と透湿性、どちらを優先させるか

かつて、「ムレないレインウエアを開発したらノーベル賞」と言われた時代さえありました。
そのくらいレインウエアの「ムレ」に関しては、使われる方誰もの大きな課題で、原反メーカー各社、その開発に力を入れました。

そこで約30数年前に、その製法として生み出されたのがポリウレタンを主原料とした特殊製法による透湿防水布の生地でした。確かにこの生地は、軽く風合いが良く着心地の良い生地だけに、代表的な防水布の一つとして、市場に定着をしたものの、この透湿防水布に使用されるポリウレタンの物性は、レインウエアという防水衣料としては如何なものか?という議論もこれまでありました。

それは、防水布の「防水性」と「透湿性」という2つの機能は、製法上反比例関係にあることから、どちらを優先させるか?という問題はこんにちまでずっと続いているから他なりません。

当初は防水性を落としてでもレインウエア最大の課題の一つ、「ムレの軽減」を重視する事が優先されました。しかしその後、その反比例関係に一番悩んだのは、他ならぬトキワを始め専業者たちで、発汗というムレ現象には個人差があり、その実証の答えが無いことや前述の加水分解、また摩擦摩耗に弱いというデメリットもあることから、このポリウレタンを配合する透湿樹脂の特殊性が、防水を最大の目的するレインウエアには如何なものかという議論が年々増してきました。

このような理由から防水性を重視する「PVC樹脂のラミネート素材」を主に採用しているトキワでいえば、「ファミネットアジャスター」のようなレインウエアがこんにちでも根強く様々なビジネスシーンで使われている現状は、「レインウエアの目的は何たるか」を物語っているのかもしれません。

透湿性以外のムレを軽減する機能

ここまで、透湿性について説明してきましたが、メリット・デメリットを踏まえたうえで、用途にあわせたレインウェア選びがとても大切です。

トキワのレインウェアは、デリバリーや訪問営業、交通誘導、ゴルフ場など、様々なビジネスシーンで用いられる事を考慮し、「完全防水」に特に強い「こだわり」を持っています。
ただ、「完全防水=蒸れて不快」とならないように、蒸れを軽減する機能を盛り込んでいます。

メッシュ裏地

裏地全面メッシュのファミネットアジャスター(ネイビー)
ファミネット・アジャスターは裏地全面メッシュ

裏地には汗のべとつきを緩和する為に、全面ポリエステル素材のメッシュが施されています。
全面に施されたメッシュがウエアの着脱をスムーズにします。

背抜き(ベンチレーション)

ベンチレーション(背抜き)のあるファミネット・アジャスター(ネイビー)
ファミネット・アジャスターのベンチレーション(背抜き)

ウエア内にこもった熱気を放出する為に背中の切り返し部分には、背抜きが施されています。

まとめ

防湿素材の特性を理解して、用途にあったレインウェア選びを

いかがでしたでしょうか。今回は「ムレ対策」としてレインウエアの透湿性という機能について解説してみました。

透湿機能のある生地の防水樹脂の主原料ポリウレタンは、ムレに対応する以外にもあらゆる素材と相性がよいことから、現在様々な衣料で取り扱われています。一方で、充分なお手入れと保管をしないと製品寿命が極端に短くなってしまうなど、非常にデリケートな素材の為、素材の特殊性をしっかり理解した上での購入や着用をおすすめしています。

防水性を重視するトキワでは、「PVC樹脂のラミネート素材」のレインウェアを主に扱っています。もちろん透湿性レインウエアやレインコートの取り扱いもございますが、着る方(用途)に取って、何を優先させるべきかをまず聞いてから、それに見合ったレインウエアをすすめるように心がけています。

用途に応じたレインウェア選びをお手伝いさせていただきますので、ぜひお気軽にお問合せ下さい。

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